2016年11月17日木曜日

【映画『弁護人』】11月19日(土)クォン・ヨンソク+加藤直樹/トークイベント


現在絶賛上映中の映画『弁護人』11月19日(土)新宿シネマカリテで13時の回の終了後、『沸点 ソウル・オン・ザ・ストリート』(ころから・刊)の翻訳を行った、クォン・ヨンソクさん(一橋大学准教授)+加藤直樹さん(フリーライター)の二人によるトークイベントがあります。

  クォン・ヨンソクさん(一橋大学大学院法学研究科准教授)

『沸点』の日本語版刊行は、加藤直樹さんが翻訳、クォン・ヨンソクさんが監訳・解説という日韓のコンビで実現しました。クォンさんは1970年ソウル生まれ。少年時代は日韓を往復して育っているので日本語/韓国語ともにネイティブです。日本外交について研究するかたわら、ニューズウィークなどの媒体に日韓のポップカルチャーや世相について軽妙なコラムを書くなど、多彩な活躍をされています。その集大成が『「韓流」と「日流」』(NHKブックス、2010年)です。以下、クォンさんが14年1月に日本のメディアに書いた『弁護人』評を紹介します。
「韓流」と「日流」』(NHKブックス、2010年)



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『弁護人』に泣いた

クォン・ヨンソク

久しぶりに映画館で泣いた。私だけではなく80年代を生きた多くの韓国人の胸を熱くしたのは、故盧武鉉元大統領の弁護士時代を描いた『弁護人』だ。『殺人の追憶』『グエムル』でおなじみの名優ソン・ガンホが、「こういう人と同時代を生きたことは幸せ」と思わせる役を見事に演じている。

無名監督が撮った社会派映画にもかかわらず、観客は1000万人を超え歴代興行記録を超える勢いとは、韓国もまだ捨てたものではない。

盧武鉉はコリアン・ドリームそのものだった。貧しい高卒の地方出身者が司法試験に合格し、人権弁護士・国会議員をへて大統領にまで上り詰めたのは、韓国民主主義の勝利の物語だった。しかし映画は彼を英雄化するのではなく、普通の小市民がいかに覚醒し変われるかを描く成長物語を軸としている。

主人公は当初、不動産登記でもうける俗物弁護士だった。だが、E・H・カーの『歴史とは何か』を読んだことが国家保安法違反だとして学生が拷問された事件をきっかけに、人権弁護士へと転身していく。
そして、デモで世の中が変わるほど甘くないと言っていた彼が、87年には民主化デモの先頭に立つ。そこには、革命は特別な人によるものではなく普通の人の勇気ある行動の結果であるとのメッセージがある。

『弁護人』は、当時を知る世代には今の自分の生きざまを問い返す映画であり、若い世代には「国家とは国民である」という憲法第1条の精神を心に刻む映画だ。その意味で民主主義の生きた教科書であり、世代間の架け橋でもある。

ソン・ガンホは、俳優とは「失くした自分を再発見させる職業」と言った。「弁護人」は盧武鉉であると同時に、あの時代を生きた韓国人の姿でもある。多くの観客は、失った自分の姿への悔恨に泣いたのかもしれない。

「弁護人」は「子どもたちにこんな世の中で生きさせたくない」から闘うことを決心する。だが民主化を達成した今日、「独裁者の娘」が大統領となり、若者はコリアン・ドリームも消え失せた超競争社会の中で呻吟(しんぎん)している。

「弁護人シンドローム」は現実の政治に影響を与えるだろうか。映画は映画にすぎないというが、文化の力は侮れない。フランス革命後、ルイ16世はルソーの本を読み「貴様が余を監獄に追いやったな」とつぶやいたという。
韓国でも金芝河の抵抗詩や趙廷来の文学が民主化運動の駆動力となり、ドラマ「砂時計」や映画『光州5.18』が光州事件と軍事独裁に対する認識を大衆化させた。
『弁護人』は歴史に残る/歴史を変える作品となるか。死後むしろ「支持率」が高くなったノチャン(盧武鉉の愛称)は、まだまだ忙しそうだ。

(初出:「社会新報」2014129日号)


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